恋人と部屋で観るなら――そんなテーマで並べられた映画にはどうしても手が伸びていかなくて。
単純にその時の気分ではなかったというのもあるけど、ゲンの前で初めて取り繕うのをやめてみようと決心したからでもある。

「名前ちゃんこういうのが好きなんだ」
「意外?」
「んー意外……とはちょっと違うかも」

お堅い本しか読んでなさそう。そんなふうに揶揄されたことがあるくらい、私の風貌は取っ付きにくく真面目に見えるらしかった。別に否定はしないし、お堅い本が悪いわけではないということも付け加えておく。

「あ、俺は好きよ?こーいうの」
「それならよかった」

テレビ画面の中で、奇妙な格好の男がこれまた奇妙な振る舞いで子どもたちを戸惑わせている。笑って良いのか良くないのか、そういうギリギリでくだらない感じが好きだった。
お皿に出しておいた一口サイズのチョコレートをゲンが摘まんでいて、それがとても美味しそうだ。

「食べる?」
「ん」
「アラ積極的」
「やだ?」
「やだじゃないけど破壊力ゴイスー」

催促して口に入れてもらったチョコレートが美味しかったので、私もゲンの口にチョコレートを放り込んだ。

「意外なんじゃなくて俺だけが知ってるっていうのがね、単純でも一番効いちゃったりするの」

ゲンもそうなら私だってそうだ。彼は誰とでもそれなりに付き合えるような人なのに、私みたいな人をこうして内側に入れてくれる。

「良いんだよね。誰かに言われた通りにならなくたって……って、こんなこと考えちゃう時点でアレだけど」

相手に言われた通りの人間でいないといけない、そして本当の自分は誰にも見せられないまま。そんなのは、窮屈だ。
真面目で堅物そうな人がくだらない冗談で笑ったって、普段軽そうに振る舞ってる人が真剣に誰かと向き合ったって良い。そう思いたい。
返事の代わりにもらったチョコレートが口の中で優しく溶けていく。
流れ出した軽快な音楽に合わせて体を横に揺らすと、ゲンがもう堪えきれないと顔を綻ばせた。
迷うこともあるけれど、一つ間違いないのは、今回の私のチョイスが二人にとって想像以上に良い感じに作用したということである。



2021.10.10


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